世の中にはホントに気の毒な死に方をする人もあるもので、今日読んでいた本に出てきたのは文字通りの「笑い死に」した人です。
先に本をご紹介すると、V.S,ラマチャンドランほか著、山下篤子訳の「脳の中の幽霊」(角川書店)。最近「脳の中の幽霊ふたたび」というのも出たそうです。
ラマチャンドラン博士はインド出身のアメリカの神経科医、心理学・神経科学者。カリフォルニア大学サンディエゴ校の神経科学研究所長です。
この本は、かの養老猛司センセイも「面白い」と絶賛されているそうで、センセイに面白いものが私に理解できるわけはなく、、、。面白いと思って読みながらも、残念ながら難しくてよくわからない本でした。それでもとても興味を惹かれる話がちょくちょく出てきて、この笑い死にもそのひとつです。
1931年ロンドン。ウィリー・アンダーソン(25)は母親の葬儀の日の朝、墓地の穴に棺が下ろされるときに笑い始めました。
どうしても抑えられず本人も狼狽して、悲嘆にくれる人々の視線を避けて遠ざかりながら、彼の笑いは数時間続いたそうです。
あまりに場違いな笑いに、その日の夕方いとこが彼を病院に連れて行きました。病院では瞳孔、脈拍や呼吸数など調べ、入院させて様子を見ていたようです。その二日後、重度のくも膜下出血のために意識不明で発見され、そのまま亡くなりました。
また1936年フィラデルフィアでは、58歳のキャリアウーマンが突然の頭痛のあと笑いの発作が止まらなくなりました。
意識はあって医師の指示に従うことも出来たけれど、脳の酸素不足で苦しがり、モルヒネも効かなかったそうです。
そして1時間半の激しい笑いのあとぐったりと昏睡状態になり、24時間後に亡くなりました。
笑いすぎると苦しくなるのは経験した人も多いでしょう。それが数時間も続いて、挙句に死んでしまうというのはとんでもない拷問に思えます。
上の二人は、解剖したら脳の中に大量の出血が見つかり、それが脳の中の組織を圧迫していました。
1930年代のことだったから助けられなかった、二人とも生まれたのが早すぎたと同情するしかありません。医学の発達した現代ならMRIで脳内出血が判り、ただちに開頭手術して助かったことでしょう。
なお笑い死にの症例はきわめて稀で、今までに20数例の報告しかないそうです。笑いの発作が短かったり、死亡までに日数があったりすると記録に残らないかもしれないですね。
イギリスの「ネイチャー」に報告された比較的新しい例では、難治性のてんかんで脳の一部を切除する手術を受ける少女(意識はあった)が、脳への電気刺激に反応して笑いが止まらなくなったことがあったそうです。
(脳は痛みを感じないので直接触れることが出来るのは、「ハンニバル」という映画(私は気持ち悪くて一部しか見てませんが)で脳を露出された男と会話をするシーンでも明らかでした。脳を切り取られても生きてましたね。ちなみに脳幹<呼吸中枢などを司る>を傷つけないと死なないから、頭を撃ち抜いて自殺するのって案外難しいそうです)
「患者を笑わせる異常な活動性ないし損傷は、脳の辺縁系、すなわち情動に関与する海馬、乳頭体、帯状回などを含む一つながりの組織の中にある」のだそうです。だからそこらへんが出血などで圧迫(刺激)されたら、笑いが止まらなくなることもありうるのでしょうね。
ところで、自閉症の子どもが葬儀などで笑い出して、親戚の顰蹙を買うという話はたまに聞きます。知人は「二度と連れて来るな」と実の父親から怒鳴られ、それから子連れでは帰省してないと言ってました。
ウチの息子も何年か前までは、満員電車の中など「よりによってこんな場所で」とこちらは泣きたくなるようなシチュエーションで、クスクスげらげらと笑い続けて困ったことが何度かありました。
「自閉症の子は可笑しいから楽しいから笑うとは限らず、どうしたらいいかわからない時にも笑う」
と解説されていますが、研究が進むとそのうち何か、医学的な説明がつくようになるのかもしれません。
2007年01月31日
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