2006年11月10日

「明日の記憶」を見て

渡辺謙主演の話題作「明日の記憶」、泣けるのがわかっているからDVDになったら一人でこっそり見ようと思っていた映画。新作の棚で見つけたので即借りて来ました。
子どもたちは仕事や学校に行った昼間、お天気が良すぎて明るいのでカーテンやブラインドを閉じ、コーヒーを用意してじっくり見ました。
予想通り泣ける場面がいくつか。最近物忘れがひどい私ももしかして? と不安がよぎったりします。
でも手放しで感動したかというとそれにはほど遠い。病名がわかるまでの描写はいいとして、特に後半部には不満が残りました。

若年性アルツハイマーに苦悩する話なら、夏樹静子の「白愁のとき」の方が真に迫っていると思います。
「白愁のとき」は、まだ51歳、脂の乗りきった自営の造園設計家が主人公。もう20年近くも前になるでしょうか、話題になった頃ハードカバーで読みました。もっと注目されてもよかった本かもしれません。
映画と小説という違いはありますが、記憶をなくしていくことへの恐怖、焦り、苛立ちがこの「明日の記憶」では迫力不足だと思いました。広告代理店のやり手の部長という仕事人間でプライドもあるのか、自分の症状を隠そうとするし、妻にもちゃんと向き合ってない感じ。

医者には食ってかかりながら、仕事は続けようとする。直属の部下の名前を忘れるから、名詞に似顔絵を入れてマッチングするなど、人知れず努力工夫します。
でも自分がちゃんと仕事が出来る状態ではないのは、わかりそうなものです。誰にでも出来るような単純作業じゃないんですから。すでにクライアントや部下には心配をかけ、士気に影響を与えている。
大きなポカをして周囲にとんでもない迷惑をかける日が来るのは時間の問題。部長のまま希望退職してはと説得されて(その方が退職金はだいぶ高いらしい)、どうしてそこで妻に相談するなりして熟考しないのでしょう。
娘の結婚式が終わるまで退職したくないなら、病気を理由に休職出来ないんでしょうか。長年勤めた会社に対してあまりに自分本位で無責任な態度に思えます。

妻は妻で、「私がついてる」。ちっとも「ついてないじゃん!」って突っ込みたくなります。
だいたい、よく病人を日中一人だけにして仕事に行けるものです。せめて食事の時間ぐらい一緒にいられるように近場で短時間のパートをするとか、どうしてもお金が必要なら車を処分するなりして作るとか、もっとやりようはあるんじゃないかと思うのです。
店長のような仕事をどうして引き受けるんでしょう、夫の世話をする余裕がなくなるのは見えてる。夫との生活より自己実現を優先させているように思えます。
夫の病気を共に引き受ける覚悟があるとは思えないのです。

進行性の病気なんだから、そのうちすべての記憶をなくしてしまう日は近い将来必ずやって来る。
今はまだ会話も出来る、壊れていない夫との残された日々は、かけがえのないもののはずです。一日一秒が貴重なはず。それなのにひとりぼっちで一日の大半を過ごして、病気の進行を待つだけの日々。
残り少ない大事な精神的余命を不安な気持ちで送らなければならない夫の苦悩に対して、あまりに無頓着に思えます。遅くなるなら電話をしてくれと言う夫に、「あなただって電話をくれたことなんかなかったわ」と仕事人間だった時代をなじる。不安の度合いは比較にならないと思うのです。
それなりの年齢で認知症になる人と違って、本人の苦しみは耐え難いと思います。せめてずっとそばに寄り添って、手を重ねてあげてほしいです。すべての記憶をなくすまでは。
posted by dashi at 23:45| Comment(9) | TrackBack(1) | 趣味 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
作品を見ていないのですが
異論があります

>長年勤めた会社に対してあまりに自分本位で無責任な態度に思えます。

病気の受け容れというのは誰にも難しいのではないでしょうか?
それも痛くてたまらないとかではなくて、残存能力があるわけで、
わかっているけど、簡単に自分の状況が心に落ちないといった
心理がわからないでもありません
お年寄りにもよく見られます

また、奥さんのことですが、仕事というのはそんなに
簡単に変えたり辞めたりできるものでしょうか?
夫がそんな状態になり、家計を支えていくのは奥さんなのですから、
少しでも収入を得たい気持ちはわかります
車を売ったぐらいじゃ支えられません
現実は生々しいものです

「あなただって電話をくれたことなんかなかったわ」
な、状態でも夫を支えてきた奥さんの複雑な思い、わかるなあ、
うちも複雑だから(笑)

Posted by at 2006年11月11日 23:17
コメントありがとうございます。異論反論暴論歓迎なんですが、未見となると背景説明を要しますね。言い訳がましい印象を与えないかとちょっと心配です。

妻の仕事のことですが、もとから働いてたんじゃないんです。夫が会社を辞める(闘病に入る)から、旧友のツテを頼って(気乗りしないところに、カネが必要だからと頼み込んで)その人の経営するギャラリーで働き始めるんですよ。思いのほか働きぶりがいいから、新しい店の店長を任されたんだと思いますが……。
お金が必要なのはわかるけど、精神余命わずかの人に熱帯魚のお守りをさせるような生活。主人公の不安を考えるとやりきれないです。何かあったらどうするんだ、走ってすぐ戻れるくらいのところに居るべきだ、と私としては思うわけです。

先日また、85歳の人が京葉道路を逆走して亡くなるという事件がありました。
本人は、自分が運転出来ない状態であると信じたくないんだろうなあと思いました。家族がいる人なら、家族も困っていたでしょうねえ。
主人公の仕事というのは、クライアントが何億もの(たぶん)経費を費やして行おうとしていたビッグプロジェクトの責任者なんですよね。
途中でやめられないという責任感もわかるけど、もしトラブルを起こすと大変なことになる大仕事。会社に正直に話して応援を求めるべきじゃないのかなと私としては思いました。
Posted by dashi at 2006年11月12日 13:41
ありがとうございます
見てもいないのに、えらそうに書いてしまいました

そうですか、闘病に入ることから仕事を得たのですね
お子さんがいるのかいないのか、いればいくつぐらいの設定か、
など、渡辺謙さんて、私と同世代だから、きっとお金がいる時期の
家庭なのかな、
主人が病に倒れたら、経済的に心配なければ
私も看病するかもしれないけど、大黒柱が倒れたら
家のローンは?子どもの学費は?親は大丈夫なの?とか、、、etc。。。
考えてしまいました

だってね、介護保険の世界を見てると、やっぱりお金なんですよ
介護付き有料老人ホームは、うちみたいな田舎でも、月に15万は下らない

ゆっくりと看病してあげられるも、金次第
もう、いろんな事例を見てると、切なくなります

スウェーデンは高福祉高負担ですよね?
所得の7割ぐらいが税金?!
それでも、学校は学用品・給食含めほぼ全額ただ、
医療費ただ、老人は老人アパートで安く暮らすのが普通で、
老後の不安はないと聞いています
うらやましいことですね


高齢ドライバー、
私の父も79歳現役ドライバーで、兵庫県から島根なんて車で平気で旅行しちゃいます
なんせ75歳まで会社員してましたから、自信たっぷりです
毎朝ジョギングも欠かさない、足取りも来年80歳にはとても見えないぐらい軽いので、本人も免許証はあと10年ぐらい離さないと思っていることでしょう

引退してもらうって難しいですね
でも、そのうち、免許証を強制返納させるような制度ができるかもしれませんね
Posted by カメ at 2006年11月13日 00:09
誰かなって思ってたら、カメさんのコメントでしたか、わかってよかった(笑)。

子どもは、一人娘(別世帯。そう若くもない。相手はちゃんとした人)ができちゃった婚をする前後の話です。式までは会社に居たい、部長でいたいという思惑もあるんですよね。
でもね〜、お産前後で心配かけたくないんだろうけど、娘にも隠すんですよね。病名はぼかすにしても、具合が悪くて家にいるからこまめに電話して〜って頼むぐらい、親子ならしろよ、って思いました。
子どもにカネはかからないし、家のローンはあるだろうけど、大きな広告代理店の部長してたんだから資産もあるだろうにと……。
夫婦愛、と素直に感動出来なかった私は少数派でしょうか??

思い詰めて(不安で?)泣きわめくシーンは、ウチの息子とダブって見えました。かわいそうでかわいそうで。
なんで一人にするんや! と思うのは、障害児を抱えているという私の個人的な事情からの発想かもしれません。

スェーデンは老人の自殺も多いって聞きますね。手厚い保護というのも難しいですねえ。
高齢者の免許更新、いずれテスト制になるようですね。お父さまは軽くクリアでしょう。

コメントありがとうございました。
Posted by dashi at 2006年11月13日 17:38
dashiさん、この映画、ご覧になったのですね。
僕も、後半の細部についてはやや流しすぎかなーと思う部分もありました。樋口可南子さん演ずる枝実子さんについては、夫の病気を受け止めるプロセス、と考えてあげてください。初期では夫に「熱帯魚のお守り」をさせるのも却って自然かな、これもありかな、と僕は感じました。大仰にされてもプレッシャーですしね…。
ついに妻である自分のこともわからなくなった夫。瞬時にそれを悟り、「枝実子といいます。枝に実る子と書いて枝実子」と新たに名乗るラストシーン、ここで枝実子さんのハラも据わったのだと思います。
それから事後報告になってしまい、また古い記事で恐縮ですが同じ映画を見たときの記事、トラックバックさせていただきました。
Posted by よっぽ at 2006年11月13日 18:59
ご丁寧に、どうもありがとうございます。

ラストシーンに涙した人は多いと思うのですが……。
私に言わせると、「記憶をなくしてから覚悟するんでは遅い。ちゃんと会話も出来る日々をもっと大事にしなくちゃ、自分をなくしていく人の心細さにもっと寄り添ってほしい」ってとこですね。
最初の方に夕焼けを見ながら廃人と化した夫にほおを寄せるシーンがあるのですが(よっぽさんは見逃したかも)、廃人になる前にしろよおおおって言いたいです。
陶芸教室だって、一緒に行ってほしい。出来る日の残りが少ないのを、もっと真剣に考えてほしいですねえ。

ボケてから10年、と言うそうです。ボケてからなら施設にあずけ、プロの手に委ねていいと思います。認知症の介護で自分の人生を台無しにしないでほしい。
そういう日が近い将来(若年性アルツハイマーなら、せいぜい一年では?)来るのだから、それまでをうんと大切にしてあげてほしいのです。会いたい人や、行きたい所があったら同行してほしいし、思い残しがないように考えてあげてほしいと思います。
Posted by dashi at 2006年11月13日 20:15
私も その映画を見ていないし、
dashiさんの記事と いろんな方のコメントを傍観しただけでの感想というか つぶやきなのですが。

私の家にも障害児がいるし、dashiさんも、そうなので思うことなのですが、
何かがおかしいという不安な長い期間と、診断がついて、ぐわーんとショックを受ける期間、
今の現状を的確に把握して、これからの見込みを概算して、
「今の彼と向かい合って、今できることをやろう」という前向きさや力がでて、、、
というのに、数年か数ヶ月かかかると思うのですね。
時間が経って それができるようになる人もいるけれど、

それが どうしても、出来ない人も居て。
嘆くばかり、悔やむばかり、逃げ回るばかりのひともいて、、、。

障害児がいて すでにそれを受け入れている経験から、
「相手の立場のほうを 思いやってあげて」「そのままを受け入れてあげて」「こうしてあげて」というのが見える(みえてしまう、望んでしまう)のは、やっぱり大きな一山を越した人だから、実感として言えることだと思います。 話は外れるのですが、私は親が二人とも健在です。
私は母と、いっつも喧嘩しています。親を早くなくしただんなには、「不満もあるだろうけど、喧嘩できる相手がいていいな。俺が親をなくしたときの気持ちは おまえには、わからないだろうけど、今のうちに大事にしてあげて欲しいな」というようなことを言います、経験したから見えるけど、経験してないと実感はわかなくて、
映画って そういう疑似体験が出来る、

そういうことじゃないかな、と思うんです。
Posted by mm at 2006年11月15日 11:37
たびたびすみません。

だんなさんがわに添ってるdashiさんと、

おそらく奥さん側に立っている(感情移入するであろう)であろう製作の姿勢や 多くの観客、
というのが ギャップなのかな、と思ったんです、

それぞれの感想があって面白いし、
どっちが正しいとかの意図で投稿したのではないことを ひとこと、言い添えたいと思ったので。
Posted by mm at 2006年11月15日 11:47
コメントどうもありがとうございます。
つい熱くなってしまいましたが、言うまでもなく仕事に出ようがなじろうがそれは奥さんの自由で、やりたいようになすってよろしいのですよ。病気でふさぎ込んでいる時に構ってもらえないとしても、それは(奥さんには)人徳のない主人公のそれまでの生き方のツケです。一緒に出かけるような生活を、それまでもして来なかったのでしょうし。
私はこの映画に素直に感動出来なかった、夫婦愛を感じられなかった、というだけのことです。

私としては、病名を知ってパニック状態になった夫の手をとって「私がついてます」と言った(と思う)以上は、ついてなさいよ! って思うわけです。
若年性アルツハイマーは進行が早いのはわかっていたはず。障害児なら徐々に覚悟を決めていけばいいけど、こっちは時間との闘い……。
幸い2年かそこらは「もった」ようで、退職後に生まれた孫と無邪気に(?)遊ぶシーンがあり、あれは私にとって救いでした。間に合ってよかった、と。
Posted by dashi at 2006年11月15日 20:26
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映画「明日の記憶」を観る
Excerpt: 2日午後、若年性アルツハイマーに罹り、記憶が失われる男の悲しみや、夫婦の絆を描き、渡辺謙さん主演で話題となった映画『明日の記憶』(堤幸彦監督:公式サイトはこちら)を、千里セルシーシアターで鑑賞。14:..
Weblog: 日々是好日−つれづれよっぽブログ
Tracked: 2006-11-13 10:00
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