2008年06月24日

ひまつぶし

自閉症の子を持つ母親どうしでランチしているとき、小さいときの<武勇伝>を聞かせてもらいました。
小さいとき大変な子は成長してからがラクと言いますが、その子も今はすっかり落ち着いて、一人で路線バスに乗って通勤しています。その姿を見た人は誰も、彼がかつては数々の武勇伝で周囲を振り回していたなんて、想像もできないでしょう。
いつも穏やかなこのお母さんもかつては修羅場をくぐったんだなあ、どれだけ驚きうろたえ困り果てたことかと、ちょっぴり同情してしまいました。

彼女の一家は集合住宅に住んでいました。おそらく社宅アパートか借り上げマンションの住まいだったと思います。
子どもの名前をAくんとしましょう。
Aくんはいわゆる自閉症らしい子で、小さいときは多動でしょっちゅう行方不明になっていたそうです。下に弟もいますし、お母さんがいくら気をつけていても一瞬の隙に出て行ってしまう。
(いつでも飛び出せるように服のまま玄関で寝ていた、パジャマなんか着たことがない、という人の話を聞いたことがありますが、彼女も似たようなものだったようです)

Aくんには、自宅以外に勝手に出入りするお宅がありました。そこの住人との関係は良好で、よく来たね、まあゆっくりしていきなさいとお菓子を出したりしてくれていたそうです。
あるとき、その家の人が不在で玄関に鍵がかかっていた。するとAくんは、たまたま施錠をしてなかったその隣の家に入ってしまったのだそうです。
その家の人はAくんのことを知らず、ヘンな子が急に入ってきてびっくりしたらしい。でもまだ小さい(カワイイ顔してる)ときだったし、心当たりを探しに来たお母さんが比較的すぐに見つけたので、そのときは大事に至りませんでした。
それから数年後。Aくんは小学校高学年、すらっと背の高い少年に成長していました。
また家を飛び出したAくんを探し回っていたお母さんの前に、頬を赤く腫らしたAくんが現われました。カンカンに怒った、「お隣の人」が言うには…。

Aくんが突然、家の中にぬっと現われた。家の中にはおばあさん、おじいさんと、お年頃のお嬢さんがいたのだけど、まるで眼中になし。悲鳴が上がっても怒鳴られても平気。
そして、そのお嬢さんの部屋に入り込んで、ベッドにもぐりこみ寝てしまった、のだそうです。
家の人は、数年前にもやって来たあの子とは気づかず、どこのヘンタイかと逆上したのでしょう。夢中で顔をひっぱたいてやっとこさ追い出した、のだそうです。
平謝りに謝るお母さんに投げつけられた罵詈雑言。さんざん罵った挙句、こんな子家から出ないようにちゃんと見張っとけとどやされたそうです。
「家から出すなって言われてもねえ。鍵かけても自分で開けちゃうし」と今は困ったように笑うお母さんも、その夜は涙にくれただろうと思ったことでした。

若い女の子が、自分のベッドに見ず知らずの男の子がもぐりこんだら、そりゃ、イヤでしょうね。
二度とそのベッドには寝たくない! と潔癖な子なら思うかもしれません。
かといって、言い聞かせてわかってくれる子ならそんなことはしないし、言ってわからなくても、親は「こんな子いらん! 出てってくれ!」と投げ出すわけにもいきません。
ちゃんと見張っとけと怒鳴る人と、怒鳴られるこちらとの違いはナンなんでしょう。
怒鳴られはしなかったけど、もうここに来ないでくれという意味のことを言われて落ち込んだこと、私も先月ありました。

こんな情けない辛い思いをしてこの子を育てて、そのあとにいったい何が残るんだろう。私の人生を全部この子に捧げなければならないんだろうか。私がいったい何をした?
多かれ少なかれ、重い知的障害児の親はそういうことを考えることがあると思います。子どもに振り回され夢中で過ごして、ある日はっと気がついたら鏡の中にはくたびれたオバサンが、恨めしそうにこっちを見ている…。

娘の通っていた高校(東京の私学)の校長はかなりの変人でした。親子代々受け継がれた座だから校長が務まったのだろうと思っています。
人生これからの高校生相手に、この人は「人生は死ぬまでのひまつぶし」と口癖のように言ってたそうです。
…自閉症児の親にとっては、子どもが次々やらかす武勇伝の後始末に追われ、なかなかシビアなひまつぶしではありますね。
なるべくガイドヘルパーなど他人の手を借りて、優雅な(ホンモノの)ひまつぶしの時間を確保し、気分転換するのが大事かもしれません。

posted by dashi at 22:41| Comment(5) | TrackBack(0) | 自閉症関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
dashiさん、こんにちは。今回のお話、実際の現場を想像しながら読ませていただきました。誰も悪気があってやっている訳ではないし、かといって年頃の女の子がいるお家は厳しい態度を取ることも分かるし、難しいお話ですね。

私は自分自身が小さい頃ワンパクで、武勇伝を作っちゃったほうです。近所で敬遠されがちな中、一番の親友は、重度の知的障害がある男の子でした。私はいつもその子のおうちに上がりこんでは会話もしないのにいつまでも遊んでました。

世間的には「障害がある」子でしたが、友達は「人を差別しない」という魅力を持った子でした。その子とそのこのお母さんに出会えてなかったら私はそのまま孤立して、全然違う人間になっていたかもしれません。言葉も交わさなかったのに、友達は今でも私の心の中で大きな位置を占めています。

うまく話がまとめられず、きれい事に聞こえるかもしれませんが、私は今でも友達を思い出しながら、人間が”人間らしい”能力を全て身につけていくことが必ずしもいい事ばかりではないんじゃないか・・・そう考えます。
Posted by Kashin at 2008年06月25日 00:01
息子も6歳ごろに、鍵が開いていた窓から出て行って(1階です)行方不明になった過去があります。
すぐに警察に連絡してパトカーで広報をかけてもらいながら捜索。どんどん暗くなっていき、午後の8時になって無事発見と報告!
歩いて数分の留学生家族寮のお宅に上がりこんでいたらしいのです。
で、日本語がわからないので、息子が話せなくても変だと思わなかったらしく、どこか他の家族の子だと思って探していたので通報が遅くなったとか・・・。お回りさんにおんぶされていた姿は目に焼きついています。
とまぁ、息子は小さかったのでコレですみましたけど。(都会で交通事故に合わなかったのが奇跡)
中学生ぐらいになったら、強盗や変質者だと思われても仕方ないでしょうね。
何かの拍子に相手に怪我させてしまう可能性も。
やはり、いつまでたっても目が離せないことにはかわらないのかもしれません・・・。
なかなか緊張感のある「暇つぶし」です。
Posted by gege at 2008年06月25日 12:00
Kashinさま、gegeさま、コメントありがとうございました。野暮用に追われて遅くなりました。

>Kashinさま、私はそのお友だちのお母さんが、とーーっても羨ましいです。どれだけ救いになったことかと思います。
「遊んであげる、お世話してあげる」ではない関係というのは、持つの、かなり難しいですよ。本当はいろいろお互いに影響しあっているのにね。

>gegeさま、子どもが大きくなると奇行?が目立つし、休みの日にも行ける場所が限られてきて、切ない思いもしますよ〜。年とともに、健常児との差がどんどん開きますしね。
体力は劣らないから、力仕事を嫌がらない子に育つといいですね。ウチの子は買い物に行ったときかなり重い荷物(米とか)も持ってくれるので、助かることもあります^^。
Posted by dashi at 2008年06月26日 20:06
こんばんは。
もうこないでくれ、なんて、なんと寂しい話。
言われたら傷つきますよね。

でも、排除、排除する人のところには、結局何も残らないんじゃないかな。排除する人はまた、排除されもする。

わたしも、たぶん自閉症+中度?重度?片言を話す知的障害のある友人が居ます、最初は正直ぎょっとしたし、どうしたらいいんだって思ったんですが いつの間にか一緒に笑ったり泣いたり。「一方的に優しくしてあげた」ではない関係だと思います。
私が東京を離れるとき、お母さんと一緒に見送りに来てくれて。いろんなとこに住みましたが、別れるとき泣いてくれたひとって、彼女以外私には居ません。彼女が居てくれなかったら、私はもっと、自分の子の障害を憎んだり、いとわしく思ったでしょう、

もちろん、dashiさんがいらっしゃらなかったら、
私はもっと落ち込んだり悩んだりぐじぐじ考え込んだりしていた。

一定数の知的障害児が生まれます、
排除する人はいつか、自分のその心に苦しむんでしょう(今も苦しんでるんじゃないかなと私は思います)。

もし息子さんと一緒に九州においでの際は、
息子さんさえおいやじゃなければ、お会いするのが私の夢です。息子さんからみたら倍くらいの年ですが、良ければ友達になりたいです。

Posted by mm at 2008年06月26日 21:47
ありがとうございます、是非お友達になってください!
息子の睡眠障害のせいで、このところとても疲れてて(油断するとすぐ寝てしまう)情緒も不安定。今日は、息子の問題行動をすぐ人のせいにする人と口論になってしまいました。
今日は早く寝て、息子が夜中に起きても目を覚まさないつもり^^です。
Posted by dashi at 2008年06月27日 21:54
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。