私の田舎でくも膜下の手術を受けた叔母が、手術後とても意地が悪くなったと娘(いとこ)がぼやいていました。
若くして未亡人になった人なのでもともと気丈ではあると思いますが、私が会うときはいつもニコニコして優しそうな女性でした。それが生死の境から甦ってからは、やけに人柄が悪くなったそうです。
ずけずけものを言うので人を怒らせることもしばしば。命が助かっただけで有り難いと感謝していても、度重なると疲れてしまうとこぼしていました。
「高次脳機能障害」という本(橋本圭司著、PHP新書)を読んでいたら、似たような例が載っていました。
脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)、事故などによる脳外傷、脳炎、低酸素脳症などで脳を損傷したのちに、人が変わったように暴力的になったり、無気力になったり、物忘れが激しくなるようなことはしばしば見られるそうです。
これを「高次脳機能障害」と呼び、
・易疲労性(精神的に疲れやすい)
・注意障害(集中力がない)
・失語(言葉を理解・表現できない)
・記憶障害(新しく何かを覚えられない)
などなど深刻な症状が見られるそうで、その中に
・脱抑制(抑制がきかない)
というのもあるので、叔母の場合はこれだったのだと思います。
2004年の厚生労働省の調査では、高次脳機能障害者は全国に30万人いて、確実に増え続けているとのこと。
脳の損傷した箇所により症状は異なり、このような症状が出る人も出ない人もあるようです。
早期にリハビリが受けられれば症状はかなり改善されるそうですが、外見からぱっと見てわかりにくい、どこまでが正常でどこからが障害かの線引きが難しいことから、医療現場で見過ごされているケースも多々あるそうです。
極端な例としてあげてあるケース。
20歳の若者がスキー場の事故で脳外傷になった。奇跡的に命をとりとめ、手足の麻痺など運動障害は残らなかったため、日常生活は不自由ないくらいまで回復しました。
ところが、今話したことも、ご飯を食べたことも覚えていない。時間の感覚もわからない、突然キレて家の壁を蹴飛ばして穴を開ける、など以前には考えられなかったような行動が続出しました。
これはまさに高次脳機能障害の症状なのですが、事故後すぐにそういう後遺症があると診断されなかった(よく知らない医療関係者もいる)そうです。
意識不明から目覚めてしばらくはあまり動くことも出来ないでしょうし、手足がちゃんと動くようになることの方に注意が向けられて、それ以外のことは後回しになるのかもしれませんね。
理解のある医師となかなかめぐり会うことが出来ず、家族は彼を連れて病院を転々とした。自殺未遂までする辛い日々が続きました。
ようやく「高次脳機能障害」と診断されたのは、受傷してから4年7ヶ月も後のことだったそうです。
その後この青年は診断がついたことでもう一度自分を取り戻し、立派に社会復帰を果たしたということです。
上の本によれば、人の脳には、
1)手足や顔を動かす運動機能
2)音やにおい、手触りなどを感じる知覚機能
3)記憶、認知、感情、言語などを支配する高次脳機能
というおもに3つの機能があり、3)の機能が損傷したものが高次脳機能障害です。
そして、「高次脳機能障害」という用語は誤解を招くから、「神経心理機能障害」などとした方が混乱は少なかったかも、と書かれています。欧米では「高次脳機能」という言葉を使わず、「認知機能」「神経心理学的機能」という言葉を使っているそうです。
高次脳機能障害とわかれば、数は多くないけれども、それなりのリハビリを受けられる病院もあります。
でも回復には時間がかかるでしょうし、先のことを考えるとどうしても不安になりますよね。受傷後あまり時間をおかずに心のケア(気持ちを吐き出せる場所を持つ)を受けられた患者は、そうでない人に比べ、その後の日常生活能力や就労能力が、明らかに高いそうです。
そして高次脳機能障害が残った場合、当事者のみならず、介護に当たる家族も、不眠、不安、悪夢などのPTSD(心的外傷後ストレス障害)に侵されている可能性が高いそうです。
家族に対しても精神的サポートがほしいところですね。
こんな情報もありました。
http://health.yahoo.co.jp/news/detail?idx0=w14061010
オーストラリアの研究では、脳卒中後(大半が高次脳機能障害者やその予備軍と言えるでしょうか)にうつ病を発症する患者が17%もいるが、大半は見過ごされてうつの治療を受けている人はその22%に過ぎない。(でもうつの投薬治療を受けたら治療効果は72%で見られるそうです。)
日本でも似たような状況ではないかと思います。うつではない患者の方が長命で生活の質が高いのは常識、だそうですから、うつの症状に早く気づき、対応してあげられる体制が整うといいですね。
高次脳機能障害の存在、その内容について、もっと広く告知され、世間の理解が進めば救われる人も多いと思います。

